病気とは、読んで字のごとく、”気を病む” ということです。


 古代中国では”氣”は、自然界に存在する全てのもの(物質、生物を含む)の究極の構成単位で、目には見えないエネルギーと理解されていました。そして、その漢字と言葉の意味が日本に伝わりました。私たちは今でもその概念を、空”気”のように当たり前に用いて、『天気』『元気』『気力』などの言葉をとくに”氣”にせず使っています。日本語はその流れを受けています。

 

 この”氣”は、西洋でもそのまま”Chi”と呼ばれたり、インドでは”プラーナ”、イギリスのホメオパシーでは”バイタルフォース”と呼ばれたり、名前は様々ですが同じものを表現しています。

 


病気はエネルギーの流れが滞った状態


”氣”を病む、とはエネルギーの流れのよどんだ状態、もしくは『本来の正常なエネルギーを失った状態』と言えます。

東洋医学では、身体に有害なものを”邪”あるいは”邪気”といい、この邪気が、身体の本来もつ健康を維持する力”正気”を上回るときに病気が発症すると考えます。

 

この”邪”は、現代でいうところの”様々なストレス”といえるでしょう。

 


現代医学でわかったこと


 

現代医学でわかったこと、それは、『細胞のDNAのなかには自己修復メカニズムがある』ということです。細胞の核の中のDNAには、異常が起こっても、実は修復する機能がもともと備わっています。

 

にもかかわらず、病気を発症する理由は、


1. 細胞にストレスをかけ続けている
(慢性的なストレス)

2. 修復が追いつかない傷

(傷が深い)

3. 修復を遅らせる原因がある

(何かが邪魔をしている)



この3つです。

 

全身の60兆個の細胞のうち、たった一つの細胞の不具合では病気にはなりません。今、症状として現れている不調、病気は、自力で修復しきれなくなった細胞が積もり積もった結果です。

 


ストレスと自己治癒力の低下


ここでは様々なストレスがどうやって自己治癒力の低下に繋がるか簡単に説明します。

 

人間は、見たもの、聞いたもの、匂い、触った感覚、外部から感じた全ての情報を、驚くべき速さで脳へ伝えることができます。

 

五感(人によっては第六感)で感じたこれらの刺激を不安やストレスと認識すると、脳の『扁桃体(へんとうたい)』という部分が刺激されることがわかっています。

 

そして、『不安や恐怖に対処せよ』という指令がまず脳の視床下部に伝えられます。

 

 

 

視床下部は緊急事態に対応するために全身に指示をおくります。

その際、下垂体に対しては、副腎にコルチゾール、アドレナリンといったストレスに対処するホルモンを出させるように連絡をします。

 

 

連絡を受けた下垂体は副腎にコルチゾールアドレナリンなどのホルモンを出すように伝えます。

 

 

また、脳から直接、自律神経(交感神経)を介して、全身に指令が送られます。攻撃ホルモンのアドレナリンは脳から背骨に沿って全身に働きます。

 

アドレナリンは人間を興奮させ、元気を出させるホルモンなので、身体全体が戦闘モードになるわけです。

通常はこうして、外部のストレスに対して全力で対応されています。


戦闘モードと交感神経


 

一方で、アドレナリンが増えた、戦闘モード(交感神経が高ぶった状態)は、外部の的に対する応戦状態なので、白血球の中でも特に顆粒球という細菌と闘う種類の細胞が増えます。

 

 

これらの細胞は菌を殺す作用のある物質(活性酸素・かっせいさんそ)を作ることができますが、活性酸素が増えすぎると逆にこれが自分の細胞を傷つけます。

 


そして、顆粒球が増える代わりに別の白血球のリンパ球という細胞が減ることがわかっています。

 

リンパ球の本来の仕事は免疫担当と言われ、ウイルスへの攻撃や、一般に癌と呼ばれるような異常な細胞を排除する仕事を担っています。

リンパ球が減ったり、正常に働けない状況はつまり、

 

『免疫力が落ち、ウイルスに弱くなる』

 

自己治癒力が低下する状態のことをいいます。


ストレスが続く

視床下部の指令が続く

戦闘モード(交感神経優位)を維持する

顆粒球が増加する、リンパ球が減少する

余分な活性酸素が細胞を傷つける

自己治癒力が下がる

 

というわけです。


交感神経が優位な状況は、心疾患や脳血管障害の原因になることやある特定の癌の進行や転移に関係していることが既に報告されています。1)2)3)


ストレスのカラクリ〜”感じる心” が寿命を縮めている〜


現在、『ストレスは健康に害を及ぼす』という認識が一般的です。

 

様々なストレスが”ミトコンドリアにダメージを与える” こともこのサイトでも何度も強調します。けれどもここでもう一つ、さらに強調したいことがあります。

 

それは

 

『”ストレスは身体に悪いと考える”ことが、一番身体にダメージを与える』

 

ということです。

 

アメリカで8年間にわたって28,753人を対象に行われた研究があります。ストレスの強度と、対象者一人ひとりのストレスに対する認識を調査したもので、8年後にその後の死亡リスクを検討しました。4)

 

8年後の調査でわかったことは、強いストレスのある人では死亡リスクが43%も高かったというものでした。

 

しかし、ここで驚くべき結果は、『ストレスは健康に悪い』と思っている人だけが死亡リスクが上がり、『ストレスは健康に悪いと思わない』人たちは死亡リスクが上がらなかったという事実です。

 

さらに、『強いストレスがあってもストレスは健康に悪いと思っていない』人たちは、ストレスが軽度の他の参加者達よりも死亡リスクが低くなった、という研究結果でした。

 

 

”ストレスが身体に悪いと感じる”ことが死亡リスクを上げるというこの研究結果は、私たちがストレスをどう捉えるかが健康に良くも悪くも影響することを意味しています。

 

病気で寿命を縮めているというより、『ストレスを感じる心』で寿命を縮めているといえるかもしれません。

 

 

人はストレスを感じると、脳がこれを処理してストレスに対する様々な行動をとる準備を始めます。この際にストレスを悪いものだと認識すると扁桃体が刺激されることは既に説明したとおりです。

 

一方で、ストレスを『危険なものと認識しない場合』は扁桃体は刺激されません。プレッシャーがかかる状態でアドレナリンや性ホルモンのDHEAが分泌され、脳や筋肉にエネルギーが送られます。同様に心拍数は上がり、心臓はドキドキしますが、筋肉はリラックスしてむしろ大きなエネルギーを発揮することが出来ます。

 

 

つまり、ストレスに対する考え方や捉え方によって、身体の中で増えるホルモンも身体の反応もあなた自身が自分でコントロールできるということです。

 

自分の今のストレスフルな状況を『良くない反応』ととらえずに『次の大きなステップと捉える』ことが重要です。

 

人々が全くストレスを感じないで人生を送ることは不可能です。失敗や不安、ストレスをバネに飛躍するほど経験値が上がり、多くの人と交わるほど人間味があふれ、その人の魅力になり財産になります。

 

病気の人は健康の有り難みを感じることが出来ます。

 

辛さや悲しみを知っている人は人の辛さや悲しみが良くわかります。

 

ストレスが多い人は、それを乗り越えた後の安堵感、達成感を深く味わうことが出来ます。

 

 

苦労が多い人ほど、幸せの意味を知り、周囲への愛情や豊かな心を持つことが出来ます。

 

 

 

病気があなたに様々なことを教えてくれるように、ストレスがあなたに伝えたいことは何でしょうか。

 

ストレスは悪い面にばかりフォーカスが当てられてきましたが、実はそうではない、さらに自分を高いレベルに引き上げるチャンスだと前向きにとらえ直すことが重要です。


ストレスを感じたら


 

ストレスのサイン心臓がドキドキして、呼吸が浅くなる、手足が冷たくなる)と感じたら、

深く息を吐いて、

”身体が正直に反応して、自分を助けるためにエネルギーを送っている”と感じましょう。

 

無理をして、この反応を打ち消そうとしたり、決して絶望的にならないことです。

 

これはストレスに対応するための正常な身体の反応だからです。

 

そして、

今の瞬間、出来ることは何だろう。

 

どうすれば最善を尽くせるか。

 

という意識にフォーカスを当ててください。

 

これを乗り越えた後、今までとは全く別の世界が広がっているでしょう。

 

過去の記憶に繋がれたあなたから、『自分で未来をコントロールするあなた』にシフトする瞬間をどうぞ体験してみてください。

 


肉体的、精神的ストレスは細胞修復を遅らせます


偏った食生活、不規則な生活習慣、栄養不足、睡眠不足や過労、人間関係のストレスこれらすべても、ストレスを感じない心がカバーできれば、もしかしたら病気は存在しないのかもしれません。

 

しかし、現実社会には病気が蔓延しています。

 

自然環境の破壊や大気汚染、電磁波問題、健康に害を及ぼす食の問題、育った環境から身近な人間関係のストレスまで、これらが複雑にからみあって様々な病気を引き起こしていることは疑いようのない事実です。

 

毎秒100万個以上の細胞が死んでは新しい細胞と入れ替わる中で、これらのストレスがDNAを傷つけつづけて修復が追いつかなければ、とうとうその細胞は正常な機能を失ってしまいます。

 

”病気は身体からの警告”と書きましたが、”何が細胞を傷つけたのかその原因を探ること”が病気を治すカギです。

 

『ストレスを栄養に変える、

強く柔軟な肉体と心』

 

 

が持てるように、日々の生活で出来ることから取り組んでいきましょう。

 


Endnotes / 参考文献:

1)Scheiermann. C.et al. "Adrenergic nerves govern circadian leukocyte recruitment to tissues. " Immunity. 2012. 37:290–301. 

2)Scheiermann, C. " Circadian control of the immune system." Nat. Rev. Immunol. 2013. 13:190–198.

3)Amit M, et al."Loss of p53 drives neuron reprogramming in head and neck cancer." Nature.2020. Feb;578(7795):449-454.

doi: 10.1038 PMID: 32051587

4)A Keller et al,”Does the Perception That Stress Affects Health Matter? The Association With Health and Mortality”

Health Psychology2012,Vol 31,No.5, 677-684